従業員のコロナ感染による業務停止や健康二次被害などを機に、健康に関わるリスクが注目を集めました。
経済産業省はコロナ以前から少子高齢化によるマンパワー不足に対応する施策として、健康経営の普及に取り組んできました。
健康経営のメリットと導入プロセス、そして、導入してもうまくいかない失敗パターンについて解説します。
※「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。
健康経営にはどんなメリットがある?
健康経営は従業員の健康維持および増進を経営課題として位置づけ、会社がサポートする経営戦略です。従来の福利厚生からさらに踏みこんで、健康を維持するための職場環境づくりや働き方改革を行っていく取り組みです。
コロナ感染による業務停止のリスクや少子高齢化によるリソース不足が懸念される中、獲得した人材にはできるだけ長く安定して働いてもらうことが、ハイヤリングと並ぶHRの最重要課題のひとつとなっています。健康経営の導入メリットについて解説していきます。
(1)傷病による欠員が減り、安定して働いてもらえる
少し前のデータですが、2013年度の傷病別の医科診療費の34.4%を生活習慣病に関する項目が占めています。また、うつやストレス関連障害などを含む精神疾患が1兆8,810億円(10.9%)と高い数字になっており、2019年度の同調査では1兆9,139億円まで伸びています。私傷病休暇の取得や欠勤などの形での影響が出ていると考えられます。
さらにコロナ感染による店舗や工場の閉鎖、物流の遅延などのインパクトを受け、従業員の健康管理はBCPにおいても欠かせないファクターであることが再認識されました。少数精鋭のベンチャーやスタートアップ企業では、数人単位で欠勤や私傷病休暇の取得が重なっただけでも業務に支障をきたす可能性があります。従業員が病気をせず、安定して働いてもらえることが事業上のリスク低減につながります。
出典:経済産業省におけるヘルスケア産業政策について(経済産業省)https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/01metihealthcarepolicy.pdf
令和元(2019)年度 国民医療費の概況(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/19/dl/data.pdf
(2)労働生産性や業績が向上する
事業計画は従業員が安定して働き、業務が予定通りに稼働することを前提としています。さらに人材が定着することで、個人のスキルアップや業務プロセスのブラッシュアップを期待できます。それらが生産性向上や業績アップへの基盤となります。
(3)ブランディングによるイメージアップ
健康経営によるブランディングがステークホルダーへの明確なメッセージとなり、企業イメージを向上させます。
(4)採用力が向上し、入社した人材が定着する
人材確保は企業規模や業種業界を問わず、プライオリティの高い経営課題となっています。大手企業ほどは認知度が高くないベンチャーやスタートアップ企業では、採用ブランディングに苦心されているのではないでしょうか。
健康経営を採用ブランディングに取り入れることで、人材を大切にする企業姿勢をアピールできます。また、健康経営への取り組みが従業員の働きやすさにつながります。健康経営度調査(経済産業省)の分析では、健康経営を推進する企業の離職率は全国平均よりも低いことが報告されています。
出典:健康経営の推進について(経済産業省ヘルスケア産業課、令和3年10月)https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/211006_kenkokeiei_gaiyo.pdf
(5)助成金など国や地方自治体によるインセンティブがある
健康経営への取り組みに対する助成金、自治体による健康経営等の顕彰制度、建設工事の総合評価落札方式の加点評価や公的融資などのインセンティブがあります。民間でも金融機関や保険会社などで健康経営優良法人への優遇措置が増えています。
健康経営優良法人認定制度と健康経営のメリット
健康経営銘柄と健康経営優良法人は健康経営の普及、促進のために設けられた制度です。その背景には少子高齢化による労働人口の減少、要介護人口の急激な増大などの社会課題があります。これらを解決する指針として掲げられたのが、「人生100年時代」の生涯現役であり続ける経済社会の再構築です。
企業側にとっても「健康経営」のブランディングで若年層採用を強化しつつ、ハイスキル人材の再雇用などでリソースをボトムアップできるメリットがあります。健康経営銘柄に選定された企業からは、投資家からの「中長期的な成長が見込まれる」という評価や学生からの認知度向上、内定辞退率の減少などの好影響が報告されています。
健康経営銘柄と健康経営優良法人の解説はこちらでご覧になれます。
BRSTコラム|「健康経営」とは?取り組む目的と事例を徹底解説https://brst.work/column/health-management-1/
どこからやればいい?健康経営を導入する4ステップ
健康経営への取り組みを指示され、どこから着手すればいいかわからなくて困っているという声も多いです。これまでには定期健康診断くらいしかやっていなかったという会社もあります。健康経営はあくまでも「経営」であり、単発のアクションではありません。しっかりした組織体制の下でPDCAサイクルをまわしていく必要があります。健康経営を導入するステップについて説明します。
Step1: 健康経営宣言
経営理念に健康経営を反映し、企業としての取り組みであることを発信します。社外のステークホルダーへの発信も重要ですが、従業員に周知徹底することも重要です。
Step2: 実施体制の組織づくり
健康経営を推進する責任者と実務を担う部署もしくは担当者をおきます。経営判断の必要性や社内への影響力を考慮して、経営層が推進責任者になるケースが多いようです。
Step3: 健康課題の洗い出し
従業員の年齢分布、健診結果、傷病の発生状況、労働時間、有給消化率などを多角的に分析し、健康課題を洗い出します。
Step4: 実施計画の策定と実行
課題解決のための施策の実施計画をたて、実行します。実行後に効果測定と検証を行い、課題の洗い出しに戻ります。
出典:健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)認定法人 取り組み事例集(経済産業省ヘルスケア産業課、令和4年3月発行)https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieiyuryohojin2022_jireisyu220318.pdf
健康経営がうまくいかない3つのパターン
健康経営の導入でメディアへの露出が増えた、採用力が強化されたなどのメリットを実感する企業がある一方、残念ながらあまりうまくいっていない会社もあるようです。両者の間にどんな違いがあるのでしょうか。健康経営がうまくいかないパターンについて考えてみましょう。
(1)従業員の共感、賛同が不足している
「笛吹けども踊らず」というパターンです。従業員のために用意した制度があまり利用されないというケースは、健康経営に限らず意外にあります。利用されない理由として、制度について認知されていない、従業員のニーズにあっていない、利用しづらい雰囲気があるなどが考えられます。健康経営の取り組みについて、従業員の共感や賛同を得られていない場合もあります。
(2)具体的な目標や実施計画がない
健康経営を正しく理解せず「福利厚生を充実させればいい」くらいの認識で、具体的な目標設定や実施計画を策定せずにアクションを起こしてしまう、勘違いパターンです。効果測定の指標がない訳ですから効果は実感しづらくなります。その結果、早々に予算を削減されてしまうなどの残念なケースもあるようです。
(3)責任をもって動く実務担当者がいない
健康経営はその性質上、総務や人事部門が実務を担当する会社が多いようです。その結果、従来業務との兼務で担当者が忙殺されてしまうパターンがあります。健康経営導入の成功は体制づくりにかかっているといってよいかもしれません。健康経営の普及を受けて、先進的なヘルスケアビジネスのサービスがどんどん登場しています。便利なサービスを活用するのも選択肢のひとつですね。ベンチャー、スタートアップにはバックオフィスが少数精鋭で頑張っている会社が多いのですが、外部リソースやサービスの活用に慣れている分、うまく対応できるかもしれません。
中身のない「健康経営」にならないために
健康経営の導入により、サステナビリティやブランディング強化などの多くの効果が期待されます。ビジネスとしても急速にマーケットが形成され、先進的なスタートアップがどんどん参入しています。
その一方で、導入した企業の一部では「従業員がついてこない」「効果を実感できない」という声も聞かれます。貴重なマンパワーやコストをかけて立ち上げた制度やサービスも、従業員に利用されなくては意味がありません。
大切なのは、従業員が自分の意志で健康のために動くこと。そのためには、楽しみながら健康維持に取り組めるコンテンツと利用しやすい環境を用意してあげると効果的です。若手から中高年まで楽しめる運動習慣づくりに、オンラインウェルネスBRSTをご活用ください!
【BRSTセッションページ】
【BRSTビデオページ】